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試合レポート

切らさなかった集中力。見事な組織的守備で名古屋を封じ、今季初の3連勝

 

試合前々日のミーティングでみっちりと叩き込んだ、今節に向けての戦術。勝ち点を得るため、いつもとは異なる戦い方で臨んだ明治安田J2第32節A名古屋戦で、チームは見事な組織的守備を完遂し、タレント揃いの相手の攻撃をクリーンシートで退ける。のみならず、89分にはセットプレーからこの試合唯一の得点を挙げ、今季初の3連勝も遂げた。

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ミーティングでひたすら守備戦術を叩き込む

 
89分に劇的先制弾を挙げた鈴木義宜は試合後、「得点は気持ち良かったけど、まだ試合も終わってなかったし、サポーターのところまで走って喜びに行く体力がなかった」と笑った。それだけハードでタフな戦いだった。「スライドし続けるのもそうだし、ずっとステップを踏んでいなくてはならなかったし」
 
J2屈指の攻撃力を誇る名古屋から勝ち点を得るために、片野坂知宏監督は今節、いつもとは異なる戦術を選択。シーズン終盤に向けて、目指すスタイルからは少し外れた戦い方を選ぶ柔軟性を見せた。その準備は、実は先々週のトレーニングからはじまっていた。
 
名古屋戦前々日のミーティングでは、いつもと違って映像を使うことなく、ひたすら30分間、守備戦術を叩き込んだ。グラウンドでは攻守ゴール前のメニューを省き、非公開の紅白戦での戦術確認に時間と労力を割いた。
 
選手起用もこの特別な戦術に合わせたものになった。4バックにするため、右SBに岸田翔平。ボランチにはチーム屈指のハードワーカー・姫野宥弥を入れ、ベンチにも運動量豊富な吉平翼を置いた。
 
「頭も使う、体も使うという本当にタフなゲームだった」と、指揮官は試合後会見でほっとした表情。アウェイで名古屋を相手に、失点も覚悟していた、勝ち点1でも良いと思っていたと明かした。終盤のセットプレーからの得点でつかんだ勝利を「選手たちが最後まで戦ってくれたご褒美」と表現したのは、心からの本音だったようだ。
 

一瞬でも集中を切らせばやられていたかもしれない

 
その「頭も使う、体も使う」戦術を、選手たちは見事に遂行した。
 
強力な名古屋の攻撃陣をゴールに近づけないよう、DF陣はラインを上げ続ける。それと同時に、相手に自由を与えず選択肢を限定するために、前線から連動してプレスをかけ続けた。
 
三平和司と後藤優介の2トップは相手の中盤に対応しつつ、コースを限定して相手の左サイドへとボールを追い込む役割を担っていた。比較的ボールを奪いやすいサイドで奪い、速攻へと切り替えるためだ。
 
人数をかけてショートパスをつなぐ名古屋の攻撃を阻むために、こちらも距離感を狭め複数で球際に寄せる。数的不利にならないよう、流動的な相手に対してひたすらこまめにスライドとアプローチを繰り返した。
 
特にシモビッチと多くマッチアップした竹内彬は、ひと回り大きな相手に対しても終始ひるむことがなかった。シモビッチの足元にボールが入ったところへ竹内が果敢に寄せ、周囲のメンバーがトラップした隙を拾ってマイボールにし続けた。
 
上福元直人は「こちらが崩れればその隙を突かれるという雰囲気がプンプンしていた」と緊張感に満ちた戦況を振り返る。主導権を相手に渡す戦い方では、よりタフさを求められるが、「90分間集中を切らすことなく、足がつった選手もいた中で、最後まで戦えた」と充実した表情を見せた守護神は、自らも度重なる好セーブでチームの危機を救った。
 
シモビッチの反転シュートがポストに弾かれたり、カウンターに抜け出したガブリエル・シャビエルがシュートをふかしたりといった“ツキ”もあったが、それとて最後までコースを切り、体を寄せ続けた選手たちの粘りの賜物でもある。
 

結果として理想的な展開となった89分の先制

 
守備に力を使いながら、狙った形でのカウンターチャンスも多く築けた。立ち上がりにきわどくオフサイド判定にはなったものの、三平がボレーでネットを揺らしたのをはじめ、後藤のダイビングヘッド、三平の1対1と、攻撃でも相手のスペースを突く狙いを表現できていた。
 
そこで仕留めていればという思いもあるが、結果論として、早い時間帯に得点すれば相手のギアも上がっていたかもしれないと考えれば、89分の得点は理想的な試合運びだったのかもしれない。
 
福森直也が足をつらせたことと、82分に相手の左サイドに入ってアグレッシブに仕掛けはじめた杉本竜士に対応するために、指揮官は87分、福森に代えて國分伸太郎を入れ、3-4-2-1システムに変更する。そこから左CKを獲得し、鈴木惇の放ったアウトスイングの弾道に、高い打点で合わせた鈴木義のヘディングシュートは、これまでの死闘に比べるとあまりにあっけなく思えるほどに、きれいにゴールに吸い込まれていった。
 
負傷した新井一耀に代わって最終ラインに入っていたワシントンも前線に上がるパワープレーで追撃を試みた名古屋だったが、最後までつなぐ姿勢を見せる選手もいて中途半端になり、こちらも途中出場していた前田凌佑や最後まで運動量を落とさなかった後藤らが、読み良くそのパスをカットしては、アディショナルタイム4分を使い切った。
 

収穫を得ながら、目指す地点はブレない

 
1年でのJ1復帰を目指す強豪・名古屋から、通算で勝ち点6を挙げることが出来たのは大きい。短期間で集中的に浸透させた対相手戦術を完遂し、勝利という結果につなげたことも、選手たちの自信につながったはずだ。
 
ただ、片野坂監督は、それを大きな収穫とした上で、さらに上を目指す。
 
「相手に大きな展開がなく、ショートパスをつなぐスタイルだったから出来たんだよということは、フィードバックしなくてはならない。そして、決して過信せずに、名古屋さんを相手にしてもわれわれらしい戦いがもっと出来るように、積み上げていきたい」
 
相手をリスペクトして守備を固めるのではなく、自分たちが主導権を握って圧倒する試合が出来るように。理想と現実のバランスをはかりながら、指揮官の目指す地点がブレることはなさそうだ。