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勝利へのカギ

【アカデミー通信】今季就任した鈴井智彦U-18監督は異色の経歴の持ち主

 

今季からU-18の指導にあたっている鈴井智彦監督。大学卒業後にサッカー雑誌の編集に携わり、その後12年にわたって単身、スペインを拠点に取材活動を続けたという異色の経歴の持ち主だ。昨季は栃木のヘッドコーチとして、J3で大分とも対戦している。インタビューを通じて、その経歴や人となりに迫った。

 

東海大で田坂元監督と同期だった

 
——今季大分でU-18の監督に就任された経緯は。
 
大分にはまったく知人がいなかったんですけど、人づてに僕の話を聞いたといってクラブから突然連絡があったんです。
 
——東海大で田坂(和昭、現・福島監督)さんと同期なんですよね。
 
そうです。多分ター坊からも話が回ったのかと。大学時代、ター坊は日の丸を背負うキャプテンで、僕はBチームやCチームで応援する側で、選手としてのキャリアは、Jリーグでの経験もないんですけどね。ター坊とは「どこかで一緒にやりたいね」っていう話を、こないだもちょっとしました。彼は最高に真面目な、紳士ですよね。
 
——現役時代のポジションは。
 
FWやSBなどいろんなポジションをやりました。
 
——どんなサッカースタイルが好きなんですか。
 
スペイン、特にバルセロナの影響が大きいですね。全員守備・全員攻撃。いまはそれが世界のトレンドというか、それが出来ないと、ということもあるんですけど。
 
——就任にあたって、クラブから要望されたことは。
 
アカデミーのコーチングスタッフを集めたミーティングでクラブのフィロソフィーについて聞き、共通理解を深めました。アグレッシブに戦うこと、自分たちでピッチ内外の問題解決できるようにすることなどですね。今後もまめに情報交換を行なっていくようです。
 

編集バイトから一流スポーツ誌での連載を持つ身に

 
——東海大を卒業後、最初は出版社に入社されたんですよね。
 
そうです。僕は愛知県刈谷市出身なので、地元のFC刈谷(当時はデンソーサッカー部)に入って働きながらサッカーしようかとも考えたんですけど。バブルが弾けて不況になったところで、ちょうど「サッカーダイジェスト」編集部でバイトしていた後輩の紹介で面接に行ったら「明日から来ないか」と。
 
パソコンを触った経験もほとんどないし、小さな原稿のタイトルをつけろと言われて一日悩むような学生だったんですけどね。「キャプションって何?」みたいな(笑)。当時は手書きで原稿を書いてFAXで送るとか、モデム通信とかいった頃。名古屋担当をやらせてもらいました。ベンゲルがいた時代です。プレーヤーじゃなくてもサッカーの現場近くにいられるというのは、やっぱりうれしいことでした。
 
——そこからいきなり思い立ち、スペインへ。写真もまったくの独学だったそうですが。
 
はい。当時はデジタルじゃなくてフィルムの時代で、現像してみないとどんなふうに撮れたか確認できなかったので大変でした。スペイン人の記者にくっついて撮っていました。
 
——バルセロナを拠点にした理由は。
 
日本の出版社に勤めながら感じたのが、海外の情報がまったくなかったこと。当時は海外の記事はほぼ想像で書いているような、ともするとインチキな状態に近くて。いや、もう時効だから言えるんですけど(笑)。知人がいたこともあったし、クライフが好きだったので、バルセロナに渡りました。僕が24歳のときでしたね。いまじゃもうそんなアホな行動は出来ませんね(笑)。家族がいたら無理ですしね。
 
——海外でいきなりフリーランスになるというのは。
 
写真さえ撮ったことのないヤツが、豆粒みたいに写ってるポジを持って、年に1回くらいしか日本に帰れない。なかなか営業も出来ないという状態でしたが、まあ徐々に、という感じでした。いくつか連載を持って、「プレイボーイ」にも書いてましたね。ちょうど日韓W杯でサッカー熱も上がっていた頃で、「Number」誌にもお世話になりました。それにしても12年間、われながらよくもったもんだと思います。もともと文章を書くのは得意じゃなかったので。編集で修正を入れられた原稿が真っ赤になって戻ってきて「もう俺の原稿じゃないじゃん!」みたいなこともあったし(笑)。
 
——海外の選手は取材が大変ではなかったですか。
 
そうですね、自己主張は強いです。でも、確かにバロテッリやイブラヒモビッチのような選手もいますけど、トップオブトップの選手は派手に見えて意外に地味というか。シャビにしてもイニエスタにしてもプジョルにしても、素晴らしい人間性の持ち主です。そういう部分も見ながらカンテラから育てていますから。
 
——カンテラを取材し続けてきたことで、育成型クラブを目指すトリニータに還元してもらえるものもありそうですね。
 
でも、100年経ったバルサがようやくいま、という感じですからね。それを僕がどう取り入れてどう表現できるかも、まだこれからの話だと思います。
 

帰国後まもなく指導者へと転身

 
——帰国して、最初はFC琉球のスタッフに。
 
それまではチームを外から取材してきたわけですが、今度は中に入って活動するのもいいなと。
 
——やっとフリーランスとしての足場が確立してきたところなのに。
 
それもあったんですけど、何か新しいこと、新しいことをしたくなる性格なのかもしれないです。それで、最初はFC琉球に、オフィシャルカメラマンとして入りました。現場にくっついて写真や映像を撮って、当時はトルシエがいたのでよく話もしました。
 
——指導者になったのは。
 
琉球で1年経った頃からですね。監督に就任することになった新里裕之さんが、もともと現場でよく話してもいたんですけど、「一緒にやろうよ」と。サッカー観に共鳴したというのもあったんでしょうか。
 
——FC琉球を離れて、一旦、沖縄の町クラブへ。育成年代の指導はそこからですか。
 
そうです。子供が好きだったので、学生の頃から自分の育った町クラブなどの育成指導の場に行ったりしてたんです。だから割とすんなり入れました。
 
——そしてブラウブリッツ秋田のアカデミーへ。暑いところから一気に寒いところへ。
 
ええ、南国から北国に。秋田のU-18年代の中ではクオリティーの高い選手が何人かいました。そのなかで、小野敬輔が今季からトップチームに昇格しましたね。
 
——昨季は鈴井さんも栃木ヘッドコーチとしてJ3を経験されましたが、J3ってある意味楽しくなかったですか。
 
そう、J1やJ2と違って降格がなくて、昇格の資格もないチームはノープレッシャーだったから。藤枝とか盛岡とか、「いいよね好きなことやって!」って僕らも言ってました(笑)。
 

練習の種類よりも大事なのは何をどう伝えるか

 
——今季は大分U-18。また育成年代に戻ってきました。
 
やっと名前と顔が一致してプレースタイルもわかってきたところなので、これから組み合わせなどを考えていく段階ですが、1年ぶりに高校生年代を見ると、やっぱり純粋ですね。何人かは「こんなにメンタルが浮き沈みするのか」って(笑)。面白そうな選手も何人かいますね。
 
——システムやチーム戦術はもう考えているんですか。
 
ベースはトップと同じ感じで行きたいんですけど、システムありきで選手をそこにはめていいものかとも考えます。あるいは選手の特長を合わせて組み上げるほうがいいのかなと。神川アカデミーダイレクターや西山強化部長と話し合っていくところでもあります。
 
——トレーニングにバルセロナでやっていたメニューを取り入れたりもするんですか。
 
指導者としてそういう時期もありました。よく聞かれるんですよ、「向こうではどういう練習をしていたの?」って。でも練習のパターンや形は、もしかしたら日本人のほうがよく勉強しているかもしれない。いまはいろんな本が出ていて情報もたくさんありますし。ただ、スペインに行ってみると、向こうはゲームばかりなんですけど、そのゲームを途中で止めたときに何をどう伝えるか。練習の種類に溺れる指導者も多いんですけど、結局は何を伝えるかというところが大事で。
 
だから向こうに勉強に行った日本人指導者は、いまこういう練習をやっているというのはすぐに理解は出来ると思うんです。脳トレ的なメニューもあるんですけど、非現実的というか、それで鍛える脳の部分をゲームに直結して使うかといったら、それはちょっと難しいところもあるので。最近はまた堅守速攻が流行っているので、トレーニングメニューもシンプルなものが増えた傾向ですね。そうするうちにまたポゼッションが流行るでしょうから、かわるがわる。歴史は繰り返すんですね(笑)。
 

スペインで「謙虚さ」を教えられた

 
——クラブからの要望は。
 
アカデミーのフィロソフィーの部分を前提として、各カテゴリーでそれぞれの監督の色を出していいと言われています。
 
——それは一貫性と矛盾することはないんですか。
 
する部分も、多分出てくると思います。ただ、最終的にはそういうものもすべて含めて一人の選手を育て上げる。最初から矛盾なくやってしまうと、すべてやってきたことが崩れてしまうので。
 
——では高校年代で最も強化したいところは。
 
やはりメンタル的なところかもしれませんね。社会に出てからも通用するように。プロになっても社会人ですからね。大学、就職、どの世界に行っても、というところがまずファーストです。
 
——育成指導において、鈴井さんが重視することは。
 
育成だからトップだからといって僕も器用に変えられるタイプではないので、話す言葉だったりやることは同じなんですけど。いちばん大事にしているのは、きれいごとに聞こえちゃいますけど「謙虚に」ということですね。謙虚って日本人的なフィロソフィーだと思えるんですけど、逆にスペインに行って僕はそれを教えられた。スペイン人の地元の選手は本当に謙虚なんですよ。
 
——そういう美学のような観点からも、スペインサッカーと日本人は相性がいいと思われますか。
 
そうだと思います。もっとも、メッシがいるといないとでチームの色が変わるというジレンマはあるんですけどね。
 

選手主導で一緒にチームを作っていく

 
——育成関連でつねに議題となるのが、結果を重視するかどうかというところですが。
 
結果は必要かと思います。成功体験として。苦しいことも楽しく出来たらいいなと。やはり昨季プレミアから降格して、メンタル的にやられている選手も何人かいるので、まずはポジティブにと。現段階では選手たちも僕のことを「どんなヤツかな」とうかがっている状態なのかもしれませんけど(笑)。最近の子供たちは空気読みすぎますからね。もっと自分を表現できるようにならないと。
 
…まあ、そうさせてしまったのは大人なのかもしれないですけどね。精神的に安定していないと良いプレーも出来ないですしね。そこには規律なども当然必要になってくると思いますけど、プレーにしても私生活にしても、ズレた選手がいたら、選手間で見て見ぬ振りをせずに解決してほしいですね。僕の出番がないくらいに(笑)。
 
——これからプリンスリーグ九州開幕までのプランは。
 
まずはハードワーク。そういう言葉ひとつでは表現しきれないんですけど、九州のチームにはストロングスタイルが多いと聞いているので、そこで戦える状態に、選手たちを持っていきます。
 
——どんなチームを作りたいですか。
 
そこも含めて選手主導で。僕がこう、というのも当然あるんですけど、そこを強く言ってしまうと選手の色が消えてしまうので、「作るのは君たちだよ」という。それが守備的なチームになるのか攻撃的なチームになるのか、両方を併せ持つのか。ただ、どこかで色を出すチームにならないと、優勝は出来ないので。そこは一緒に作っていきたいです。
 
——やはりやるからには優勝を目指す方向で。
 
それを絶対だと選手に課してはいないんですけど。言わなくてもみんなそれは当たり前のようにわかっていることだと思うので。練習も気軽に見に来てください。どうぞよろしくお願いします。
 

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