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試合レポート

これまでの積み上げが真っ向勝負を支えた。全員で勝ち取ったアルウィンで初の歓喜

 

第35節A岡山戦に続く、正攻法で挑んだミラーゲームでの快勝。明治安田J2第38節A松本戦は、またもメンバーを入れ替えて臨み、全員が個々の特長を生かして勝利を引き寄せた。日々の積み上げによるチーム完成度の高まりを感じさせるゲームだった。

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濡れたピッチで、正攻法でぶつかり合う

 
試合前々日には、もう少しひねりを効かせた戦術で臨む選択肢も匂わせていた片野坂知宏監督。実際、複数オプションも選択できるメンバー構成としたが、フタを開けてみれば至って正攻法な3-4-2-1システムだった。コーチングスタッフたちと話し合い、選手個々の特長が最も生きると思われる形を選んだという。
 
ただ、先発も控えも、これまでのメンバーから入れ替えた。コンディションが万全でない戦力が複数名いる中で、状態の良い者を選び、それで対松本の戦術を組んだ。
 
松本も3-4-2-1のミラーゲーム。その中で相手のストロングポイントを抑え、ウィークポイントを突く準備をした。いずれにしても松本の、1トップの高崎寛之にボールを当てて起点を作らせる戦い方は変わらない。そのセカンドボールを拾う2シャドーには、右にはクレバーな工藤浩平、左にはスピードのある石原崇兆が据えられた。左WBには那須川将大、最終ラインの左には安川有と左利きが並んだ。
 
降り続いた雨でスリッピーなピッチコンディション。もともと芝が長いこともあり、大分の選手だけでなくホームの松本の選手たちも頻繁に足を滑らせた。立ち上がりから攻守の切り替え激しい好ゲームの予感が漂った中で、ひとつの事故が勝敗を分ける可能性もあるかに思われた。
 

攻守にわたり組織で粘り強く戦い続けた

 
何よりも高崎に仕事をさせないように抑えなくてはならない。特にマッチアップする竹内彬が、果敢に体を張って起点を潰し続けた。そのセカンドボールは、最終ラインとボランチが集中して拾い続けた。
 
攻撃の狙いは、こちらも1トップ・伊佐耕平の特長を生かすこと。相手の最終ラインの両脇をつり出して空けたスペースを使い、スピードと勢いでダイナミックに相手をぶっちぎってゴールを奪うというものだった。
 
だが、前半は相手もなかなか自由にはやらせてくれなかった。ビルドアップ時に鈴木義宜の足元にボールが入ったところへ、石原が間髪入れずにプレッシャーをかける。岸田翔平がサポートに行くと、そこには那須川が寄せる。こちらがダイレクトプレーを繰り出すより早い相手のプレスにライン際へと追いやられて手詰まりになった。
 
それでも攻守にわたり辛抱強く狙いを続けたことが、次第に流れを引き寄せ、最初の分岐点へとつながった。38分、鈴木惇の右CKがGK村山智彦にクリアされたこぼれ球を、密集の後ろから岸田が右足でシュート。相手の股を抜けたボールはネットを揺らし、岸田の今季初得点でリードを奪った。
 
45分にはクリアボールをパウリーニョに拾われ鋭いミドルシュートを食らうが、クロスバーに当たって命拾い。前半アディショナルタイムにも石原が頭で送ったボールをゴール前で安川に合わせられたが、これも枠を大きく外れた。そんな運にも助けられつつ、1点をリードして折り返す。
 

攻撃の強度を増す相手に守備力を高めて対応

 
続く58分には、松本怜の今季3点目で突き放した。「田中隼磨さんを切り替えで上回れていたし、GKとの間には飯田さんしかいなかったので、そこをかわせば行けると思った」という素早い判断でつかみ取った追加点。
 
実はこのカットインからのシュートは、チームとしての狙いでもあったという。前半のうちに相手のぎこちなさを見て手応えを感じた指揮官は、ハーフタイムに「向こうは思いっきりプレッシャーを感じている。こっちはノープレッシャーで思い切って行ける!」と選手たちを焚きつけるとともに、スピードスター・松本怜に、縦を切ってくる相手の裏をかきカットインするアイデアを教唆していた。
 
上福元直人のファインセーブもあり、高崎を抑えられ攻め手を欠く松本は、61分に那須川を下げ、石原を左WBに回してシャドーに山本大貴を投入。さらに72分には石原に代えてジエゴを左WBに配した。勢いを増す相手に対応するために片野坂監督は75分、小手川宏基に代えて姫野宥弥を入れ守備力を上げる。82分には相手が岩間雄大を下げて山本をボランチに回し、鈴木武蔵を送り込んで攻撃の迫力を増幅。
 
相手の攻撃をしのぎながら、こちらも鈴木義宜のヘディングシュートや伊佐のミドルシュート、後藤優介のGKとの1対1など数々の得点機を迎えるが、枠を外したりポストに阻まれたりGKに当ててしまったりと3点目を奪えない。
 

底上げが進みチームのポテンシャルが高まる

 
焦る松本の攻撃は次第に大味になった。82分、片野坂監督は伊佐に代えて吉平翼を入れ、前線からのチェイスとカウンター攻撃を託す。さらに89分には後藤に代えて山口貴弘。ほとんど6バックのような形になりながら、パワープレーに上がってくる飯田真輝をマンマークさせて、アディショナルタイムをしのぎ切った。
 
緑色に染まるスタンドを静まらせた、記念すべきアルウィンでの初勝利。この試合でも、さまざまな点で、チームの成長が見て取れた。調子を上げている岸田や松本怜の得点をはじめ、ひさしぶりに先発した伊佐の活躍、前節・福岡戦に続く姫野の貢献。さらに吉平と山口の、それぞれのストロングポイントを期待されての、組織の中での役割の完遂。
 
片野坂監督は選手たちをねぎらった。「(吉平)翼にしても宥弥にしてもぐっさんにしても、我慢強くトレーニングしたり練習試合でアピールしたりし続けてくれていた。それがこういうときに、大事なゲームで出場してチームに貢献することにつながると、本当に思う」。実はジエゴが猛威をふるいそうなら、岸田に代えて岩田智輝をマッチアップさせるプランも考えていたそうだ。
 
また、セットプレーの守備でもスカウティングの成果が見られたようだ。コーチ陣の冴えた仕事が光る。
 
手強い相手をアウェイで無失点に抑えての快勝に、チームは勢いづく。「まだプレーオフ圏内にも入っていないので、チャレンジャーの気持ちで挑める。僕らはJ2復帰1年目で失うものはないので、ガンガン行けると思う」と松本怜。次節はホームに、千葉を迎える。ひとつ下の順位を追走してくる“天敵”を、突き放すチャンスだ。