試合レポート

[試合レポート] 2017/11/12

試合レポート

 これぞ片野坂スタイルだ。昇格の可能性は消滅も、チームは高い完成度を披露

 

前半の決定機をものに出来ていれば。今季、何度そうやって勝ち点を取りこぼしてきただろう。勝たなくてはプレーオフ参戦の可能性が消滅する一戦は、まるで今季を象徴するような展開となった。無念の敗戦により今季のJ1昇格はなくなったが、チームは1年にわたり積み上げてきたものを表現し、“片野坂トリニータ”のスタイルを遺憾なく披露した。

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メンバーと形に大胆な改革を施しての決戦

 
試合後、会見場に現れた片野坂知宏監督は「悔しい」と第一声を振り絞るのが精一杯で、咽び泣いた。報道陣のシャッターが一斉に切られると「撮らないでください。みじめなので」と制したが、気力で落ち着きを取り戻し、試合を振り返った。
 
内容が良かっただけに、無念さもひとしおだったことだろう。攻守に狙いがハマり、強豪・徳島を翻弄した。粘り強い守備でしのぎながら多くの決定機を作ったが、ゴールを奪えず、勝ちに行くため攻撃的なカードを切った。89分、一瞬のほころび。徳島はそれを逃さなかった。「決定力の差が勝敗を分けた」と、エース・後藤優介は肩を落とした。
 
采配合戦必至の水際の大一番に懸ける指揮官の大勝負は、試合前からはじまっていた。ほとんどの試合で出場を続け、今季のスタイル構築をリードしてきた上福元直人と竹内彬を、ここに来て先発から外す。ゴールマウスは第2節以来の公式戦出場となった高木駿に託し、3バックの中央には鈴木義宜をスライド。その右には対人に強いファン・ソンスを配置した。
 
その前には3枚のボランチを並べる。アンカーに鈴木惇、その両脇に川西翔太と小手川宏基。流動的に中央から崩してくる徳島の攻撃に対応しながら、左右WBの松本怜と岸田翔平がつり出した相手SBのウラのスペースを、川西と小手川が突いた。2トップは互いに気心の知れた三平和司と後藤。集中力を保ち、ダイヤモンド型4-4-2の徳島との噛み合わせを考えながら、随所で数的優位を作った。
 

一連の攻撃に片野坂スタイルの真骨頂が見えた

 
風下に立った前半、立ち上がりからしばらくは徳島のスピーディーで流動的な人とボールの出入りに押し込まれ続けたが、鈴木義を中心とした組織的守備はコンパクトな距離感を保たれ、隙を見せなかった。
 
次第にそのスピードに慣れてくると、こちらもボールを動かせるようになる。片野坂監督も「あんなに前から来ると思わなかった」と振り返ったほどに、徳島はリスクを冒して球際へと激しくプレッシャーをかけてきた。リカルド・ロドリゲス監督が「行け!行け!」と指示を送る横で、片野坂監督も「つなげ!」と全身で伝え続ける。徳島の勢いにのまれさえしなければ、「相手がプレッシャーに来れば来るほど背後を突いて攻めることが出来る」という“片野坂スタイル”の真骨頂を、最も表現できる状況だった。
 
後方からのフィードに抜け出した松本がブラインドサイドを突く場面が増えると、中の状況を落ち着いて見極めながら送るクロスは、多くの決定機を作り出した。最も象徴的だったのが32分のシーン。高木、鈴木惇、川西、福森直也、松本、後藤とつないで松本の送ったパスを三平がシュート。相手にさわられ惜しくも枠の左に外れたが、川西のフリーランも絡みながら相手を変化させ、そこで生まれたスペースを次々に3人目が使いながらフィニッシュまで運んだ。まさに片野坂監督が追求するサッカーを具現化した形だった。
 

決定機を逃し続け、攻撃的カードを次々に切る

 
ちょうどその時間帯あたりに、徳島は選手の立ち位置をずらし、システムを3バックに変更。なかなかハマらない守備をハメようと修正を図ったが、相手がどういう形になっても、そのときどきの状況を見極めて数的優位を作り出す大分の攻撃は抑えられない。
 
40分には福森のインターセプトから中を経由して岸田が持ち上がり後藤がシュート。思い切りの良い弾道は長谷川徹にさわられポストを叩いた。
 
後半頭から徳島はふたたびシステムをダイヤモンド型4-4-2に戻したが、今度は大分が風上。65分、鈴木惇の左足から放たれたFKは巻きながら強風に乗ってゴールを目指したが、またも長谷川にさわられ、わずかに枠を外れる。
 
度重なる決定機を決めきれず、時間が気になりはじめた66分、指揮官は三平に代えて大津耀誠を送り込んだ。75分には岸田を下げて松本を右に回し、左WBにシキーニョを配置。さらに81分にはファン・ソンスを下げて4バックに変更し、後藤をサイドに回して伊佐耕平と大津の2トップで攻勢を強めた。
 
高木のビッグセーブや相手の精度不足に救われ、71分には後藤のミドルシュートがまたもクロスバーを直撃しながら、一進一退もめまぐるしい、緊迫感あふれる好ゲーム。両軍がそれぞれの特長を生かして高いインテンシティーを発揮し、ぶつかり合う様子は、シーズン終盤の決戦にふさわしいハイレベルな戦いとなっていた。
 

このチームにはまだ成し遂げるべきことがある

 
均衡が破れたのは89分だった。右サイドでボールを持った島屋八徳にシキーニョが簡単に振り切られ、クロスを入れられると、大分の選手たちの死角を突いて渡大生が飛び込む。わずかなスペースへと入り込まれてのヘディングシュートは、この試合でたったひとつのゴールとなった。
 
勝たなくてはならない大分が攻勢に出た時点で、守備にほころびが生まれることは必然だったのかもしれない。片野坂監督も「勝負に出た結果、やられるべくしてやられた」と振り返った。守備が得意ではないシキーニョに頼らざるを得ない状況になる前に、数多く築いた決定機のうちのひとつでも決めていれば——。
 
今季1年間、なかなか上手く行かなくても辛抱強くトレーニングを続け、高度なスタイルをものにするために積み上げてきた重みを考えれば、J1昇格のチャンスを逃したことは本当に悔やまれる。フォーメーションやメンバーを変えた中で、これだけチームコンセプトを体現できるのは、スタッフと選手全員で、丁寧にチームを作ってきた証だ。このチームで戦う公式戦は、あと1試合。決して長くない現役期間のうちの1年1年に、選手は各々のすべてを懸けて戦う。来季の保証のない世界で、1年ごとの全力を尽くす。
 
J3から昇格1年目、J1昇格を争うところまで戦えた成績は、客観的に見れば「良くやった」と言われるレベルなのだろう。だが、当事者にとって欲しかったのは最高の結果だけだ。
 
それをつかむためには、まだまだ足りないものがある。まずは次節、最終戦に、ホームで勝利すること。来季のことはまだ何も決まっていなくても、今季このチームで戦ったひとりひとりがレベルアップするために、そしてそれがチームにとって、あるいは個人にとって来季につながるよう、今季みんなで目指したものを全うしたい。