TORITENトリテン

試合レポート

ゴール裏を青く染めたトリボードに後押しされ、TTの2発でホーム開幕戦勝利

 

リモートマッチという特殊な環境下でようやく迎えたホーム開幕戦。勝利の喜びをスタジアムでともに分かち合えれば最高だったが、それでも、ファンやサポーターやスポンサーの方々の思いを背負って戦った九州ダービーは、価値ある今季初勝利となった。

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特別指定選手2人がメンバー入り

約4ヶ月ぶりの公式戦であり、イレギュラーな中断期間に一旦コンディションがリセットされた選手たちにとっては、本当に難しいシチュエーションでの“2度目の開幕”だったはずだ。長い中断を挟んだことにより再びの情報戦ともなって、また初っ端からの3連戦でもあり、片野坂知宏監督以下コーチングスタッフも頭を悩ませたようだった。
 
試合直前にいろいろなメディアで取り沙汰された“新戦術”がこの試合で披露されるのかどうかも注目されたが、スタート時からチームが採用したのはこれまでどおりの戦い方だった。展開によっては途中からという可能性もあったのかもしれないが、結果的に立ち上がりから最後まで、その戦い方を貫く形になった。
 
福岡大の井上健太が先発し、鹿屋体育大の藤本一輝がベンチに控える。2名の特別指定選手をメンバー入りさせたことにも意表を突かれた。井上は鹿児島キャンプのトレーニングマッチではWBで出場しており、タイプの似ている田中達也と同じような起用法でシャドーに配置された。
 
一方の鳥栖はルヴァンカップとリーグの開幕戦で見せた4-3-3。これが昨季から継続して今季も金明輝監督のベースの形となるのだろうか。1トップには今季初出場のレンゾ・ロペス、その右に調子を上げたチアゴ・アウベスと外国籍選手が並んだ。

 

高木の好セーブで流れを掴む

開幕戦もそうだが、特殊な状況では試合の入りが大事になる。試合勘不足や緊張によるミスが起こりがちで、国内外のリーグでも初戦の立ち上がりから大味にスコアが動くゲームが散見されていた。
 
キックオフからしばらくはアグレッシブな姿勢を見せた鳥栖に、硬さの見える大分のビルドアップはやや覚束ず、ピンチを招く。16分には鳥栖の中盤のボール回しからチアゴ・アウベスに強烈なミドルシュートを許すが、高木駿が素早い反応で掻き出した。24分にもCKのデザインプレーから本田風智のミドルシュートが枠内へ。これも高木がファインセーブ。守護神の活躍でこの時間帯をしのいだことが、その後の主導権掌握につながった。
 
試合後に高木は「いつものルーティンとして観客のいないメインに挨拶して、トリボードがたくさんあったのでゴール裏にも挨拶に行った。そうやってルーティンをやっていると、ボードだったがサポーターがいるような雰囲気を勝手に感じてモチベーションが上がり、いつもと同様の入り方で入れた」と明かす。松本怜も「ピッチに出る前にゴール裏に挨拶に行ったとき、一人でトリボード一列分を占拠している人がいるのが見えて『ああこんなにしてくれる人もいるんだ』とちょっと和んだ」とリラックスできた理由を語ったが、チャントの流れる音響を含めたホームの環境づくりもまた、チームの戦いを有利な展開へと導く一助となっていた。
 
その後は鳥栖がブロックを構えた。戦術的な狙いだったというが、前半はそれが裏目に出て後ろが重くなったと敵将は率直に話す。「相手WBの立ち位置をリスペクトしすぎた」のがその理由で、その陰では小屋松知哉に対する松本の緻密な駆け引きが奏功していた。
 
ただ、ボールを動かしながら攻めても、鳥栖は最後はゴールを割らせてくれなかった。岩田智輝の攻め上がりや右サイドでの細やかな崩し、また相手SBが動いて空けたスペースへの大きなサイドチェンジと、攻略のバリエーションは増えていたが、人に強い相手CBを動かすところにまでは至れず。知念慶や渡大生にも幾度かチャンスがあったが、あと少し、出てくるボールの精度がよければもっといい形で決定機を迎えることが出来ていたかもしれない。

 

采配合戦と激しい攻防の末、田中が駄目押しの追加点

0-0で前半を終え、ハーフタイムでの交代は鳥栖がレンゾ・ロペスを林大地に代えたのみ。交代枠は5枚だが交代回数はハーフタイム以外に3回と定められているので、ここでの選択は大きな岐路になる。片野坂監督は井上を交代させるか否かを迷い、もう少し様子を見ることにして後半に入った。
 
鈴木義宜にがっつりと潰されて起点を作れなかったレンゾ・ロペスが機動力のある林に代わり、鳥栖の攻撃のテイストは変化したが、戦況は変わらなかった。次に動いたのは大分で、56分、井上に代えて田中達也を投入。59分には鳥栖もチアゴ・アウベスを金森にチェンジした。前線の外国籍選手2人がいなくなったことで、大分に少し余裕が出てくる。61分には知念が威力あるシュートを放ったが、守田達弥に阻まれた。
 
スコアが動いたのは66分。高木のゴールキックを左サイドのスペースで知念が拾い、少しタメてから香川勇気に落とす。香川は自慢の左足でゴール前に美しいクロスを送った。相手CBの死角に入り込んで待っていたのは田中だ。「相手の背中を取ることはクロスの入り方として熊本時代に北嶋秀朗さんにずっと言われていた」という172cmが、高くジャンプしてヘディングシュートをゴールへとねじ込んだ。
 
鳥栖はただちに本田を梁勇基に代え、梁をアンカーに置くと松岡を一列上げた。梁の高精度の配球は脅威だ。大分は渡に代えて三平和司を入れ、主導権を渡さないように前線に収まりどころを作る。78分、鳥栖は小屋松と内田裕斗を下げて豊田陽平と原輝綺を送り込み、豊田にボールを集めてパワーをかけてきた。屈強なストライカーにじわじわと押し下げられはじめた大分は、知念と小林裕紀を伊佐耕平と島川俊郎に代えて布陣の強度を保つ。
 
岩田の流血もあった激しい攻防の中、90分に、またも高木のゴールキックから試合を決定づける追加点が生まれた。伊佐が落としたボールを三平が上手く繋ぎ、それを拾った田中が相手CBから離れながら独走し、コースを作ってシュート。この日2点目で駄目押しする。
 
試合後、選手たちはゴール裏に並ぶトリボードの前で恒例のラインダンスを披露した。ソーシャルディスタンスを保たねばならず肩を組むわけにはいかなかったし、飛び跳ねるテンションも観客がいるときよりは控えめだったが、前に出てチームメイトをあおる高木は、いつもどおりの高木だった。ヒーローインタビューを終えた田中も、ゴール裏のトリボードに挨拶に出向いた。
 
公式戦勝利は昨季J1第31節のG大阪戦以来、約8ヶ月ぶりだ。本当にいくつもの難しい条件を受け入れながら勝ち取った喜びは大きい。その余韻も束の間に、チームは中3日でアウェイ広島戦に挑む。