カウンターの脅威にも勇気を持って挑み、長沢&堅心弾で今季初の連勝
奪われればたちまちカウンターの脅威に晒される。それでもチームはそんな甲府の戦法を逆手に取るように、勇敢な立ち位置で挑み続けた。
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いきなりウタカの脅威を実感する立ち上がり
おそらくピッチの気温は30度近かったのではないか。強い陽射しが照りつけ、芝に撒いた水は見る見る蒸発していった。中2日で次節を控える変則的な連戦。大分のスターティングメンバーは前節・熊本戦の前半に負傷した香川勇気に代わって茂平が入ったのみだったが、ベンチメンバーは大きく顔ぶれを変え、負傷から復帰して初メンバー入りした大卒ルーキーのキム・ヒョンウ、特別指定選手の有働夢叶と木本真翔が名を連ねた。
守備陣に負傷者が多発している甲府は、43歳の山本英臣が先発。中盤より前にも、コンディションを上げて今季初先発のヘナト・アウグスト32歳、ヘナトとコンビを組む佐藤和弘33歳、アダイウトン33歳、ピーター・ウタカ40歳と経験豊富なプレーヤーが多く並び、先発メンバーの平均年齢は30.64歳。大分の26.64歳よりちょうど4歳、上回った。三平和司はベンチスタート。
暑さによる疲労も考慮してか、台所事情によるものか。甲府はあまり激しく球際に出てこない。それでも大分からボールを奪えば、1人だけ攻め残っているウタカに当てて迫力満点のカウンターを仕掛けてくる。9分には山本のフィードを藤原優大が跳ね返したセカンドを鳥海芳樹に繋がれ、ウタカが持ち込んでシュート。小酒井新大、藤原、安藤智哉が対応する中、あっという間にシュートまで持っていかれた。
中盤の立ち位置がボールを運ぶカギに
ロストすればたちまちカウンターを受けることになるのだが、大分は積極的な立ち位置を取って立ち向かう。攻め残っているのがウタカ1人なのをいいことに、その対応は安藤と藤原の2CBに委ね、中盤はピッチ上の状況を見ながらそれぞれの特長を生かしたポジショニングで関わった。渡邉新太と2トップを組んだ長沢駿はこの試合でもタイミングよく下りて起点を作った。
その狙いから13分にはボールを動かして相手陣へと攻め込み、宇津元伸弥のクロスを野村直輝が折り返して長沢がシュート。惜しくも右に逸れたが、ダイナミックに前進できてフィニッシュまで行けたシーンだった。25分には野村のウラへの浮き球に渡邉が反応するがシュートは打てず。
29分にはボールを運んでいた茂平がハーフウェイライン付近でアダイウトンに奪われ、またもウタカの個人技からのシュートを浴びたが枠の上。33分には弓場将輝がボールを失ったところから最後は鳥海芳樹にシュートを許したが、枠の左へと逸れた。
背後へのボールを織り交ぜながら多彩に攻めるが、前半、大分のシュートは2本。一方の甲府も4本にとどまる。
攻め合いの中で長沢の左足から先制弾
後半は立ち上がりから攻守に積極性を増した甲府。48分にはアダイウトンが野村にプレスをかけてボールを奪いカウンターを発動。濵田太郎が1対1に備え藤原が寄せに行くとアダイウトンはフリーになったウタカへとパスを出すが、これがズレて大分としては命拾い。49分にもアダイウトンにマイナスに折り返されたが、今回もウタカに合わず。さらに自陣での競り合いからアダイウトンにボールを拾われて強烈なシュートを浴び、またしてもわずかに枠上へ。
大分も攻め返し、押し込むシーンを作る。52分にはウラに抜け出した宇津元が寄せてくる相手を退けながらエリア内へと進入するが、最後で潰されてシュートは打てず。茂の仕掛けからFKを得たり宇津元のショートCKの流れから藤原が頭で合わせたりと、攻める姿勢から複数のチャンスが続いた中で、左CKから先制点が生まれた。58分、宇津元のキックを山内康太が掻き出したところで、こぼれる位置を予想して待ち構えていた長沢が左足でダイレクトにミートすると、シュートは相手に当たってゴールネットを揺らした。
ビハインドになった甲府は64分、飯島陸に代えて三平を投入。66分には早速その三平が起点となってウタカがシュート。さらに71分にはヘナトを三沢直人に、鳥海を水野颯太に代えて追撃してくる。
追いつかれるも野村のお膳立てから堅心の勝ち越し弾
74分、同点に追いつかれた。安藤が跳ね返したボールをアダイウトンに拾われ、またも豪快なシュートを放たれる。これまでは枠外に逸れていたが、今度はポストの内側を叩いて中へと跳ね返った。
攻め合いの中で、76分には野嶽のシュートが、77分にはウタカのシュートが、それぞれ枠を捉えきれない。片野坂監督は78分、疲労の見える弓場を保田堅心に、宇津元を木本に交代した。木本はこれがリーグ戦デビューとなる。79分には篠田善之監督が、飯田貴敬を荒木翔、山本を神谷凱士に2枚替え。関口正大が右に移り、荒木は左SB。2CBも今津佑太が右、神谷が左の並びとなる。
相手を押し込みながら2次攻撃、3次攻撃を繰り返していた81分、勝ち越し弾を仕留めた。保田からのクサビを受けた野村が巧みにボールを持ちながら相手を4人引き付け、その背後でフリーになった保田にすかさずパス。腰を捻って左足を振り抜いた保田のシュートはゴール右隅に転がり込んだ。
甲府は中盤ダイヤモンド型の4-4-2へと形を変え、前線に人数をかけて攻撃姿勢を強める。片野坂監督は84分、渡邉をペレイラに代えると最終ラインを右から茂、安藤、ペレイラ、藤原、野嶽の5バックに変更。保田と小酒井のダブルボランチ、長沢を頂点に左右に木本と野村を配置して、甲府の追撃に対応する態勢を取った。
最後は明快な姿勢で逃げ切りに成功
さらに89分には、疲労の見える長沢と小酒井に代えてキム・ヒョンウと中川寛斗を投入。中川の機動力を生かして相手の攻撃をケアしつつ、カウンターチャンスを狙った。
左CKのチャンスではコーナーでキープして時計を進めたが、6分に設定されたアディショナルタイムにはまたもアダイウトンにシュートされ、枠上に逸れて胸を撫で下ろすシーンも。守り切るという明快な戦いぶりで最後まで集中を切らすことなく相手の追撃を退け、チームは今季初の連勝を遂げた。
野村の完全復活が、スタイルの体現に大きな役割を果たしている。ボールを収める力を持つ野村がゲームをコントロールしたり組み立てたりすることで、これまでは長沢に集中していた負荷が分散され、個々の戦力のストロングポイントが組織へと還元されはじめた。
相手を押し込んで立て続けに攻撃を仕掛けるシームレス状態の時間帯も、この試合ではたびたび見られた。シュート数は前後半を合わせて7本とまだ物足りない数字だが、2得点はうれしい成果だ。
チームは試合後すぐに帰路につき、深夜に帰着。中2日での長崎戦に向け、回復も含めた準備に努める。