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試合レポート

一体になって勝ち取った3試合ぶりの歓喜。前回対戦の雪辱を果たす

 

雷雨の中、1200人にも上るサポーターがゴール裏スタンドを青く染めた九州ダービー。苦しい戦況も修正しながら乗り切り、最後は相手の猛追を振り切って、前回対戦の雪辱を果たした。

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噛み合わせの難しかった立ち上がり

試合前から、ビジター側ゴール裏スタンドの迫力は素晴らしかった。午前中は大分、午後は熊本と、応援に駆けつけるサポーターと一緒に雷雨も移動したような天候に苛まれたが、試合前には雨も上がる。ただ、気温はそれほど高くないが湿度は高く息苦しい。ピッチの水捌けはよく、芝の状態は良好なようだった。
 
天皇杯3回戦・G大阪戦に先発した坂圭祐、中川寛斗、弓場将輝、保田堅心が中2日で先発。前節の栃木戦後に羽田健人が負傷したため、ダブルボランチの組み合わせが誰になるかと思われた中で、下平隆宏監督は対熊本のプランとともに若い2人でスタートを切った。保田はこれがリーグ戦初先発となる。
 
熊本は独特の4-3-3システム。3トップの両WGが幅を取り、WBが中に絞ってCBと絡みながら、スピーディーかつ流動的にボールを運ぶ。その大木武監督仕込みのパスワークにプレスを剥がされる中で、互いの立ち位置の噛み合わせが、大分にとっては難しかった。
 
前半の大分は長沢駿が左に流れてボールを収めたり2シャドーが相手のアンカー脇を使ったりしながら早めにボールを前線に送る。だが、攻撃に絡んだり相手WBの攻撃を阻んだりするために藤本一輝が前に出ると、その背後の広大なスペースで杉山直宏がフリーになった。三竿雄斗は中央のカバーリングのためサイドにつり出されるわけに行かない。逆サイドでは井上健太が坂本亘基を気にして高い位置を取れず。そこでボールを奪った熊本が左サイドで作り右サイドの杉山へと大きく振って大チャンスを築く場面が、立ち上がりからしばしば見られた。特に8分には杉山のクロスをゴール前の髙橋利樹が収め損なって命拾いしたが、危ない場面。守備に負荷のかかる三竿の賢さが生きる時間帯だった。

 

互いに長所を生かし前半に1点ずつを取り合う

大分も長沢をターゲットに積極的にボールを入れて攻めた。中川のすばしこいポジショニングが相手を嫌がらせるようで、タックルされてFKを獲得する場面も複数回。12分には中川のFKを保田が足で逸らしたが味方には合わず。13分には相手陣での激しい攻防の中、保田のカットしたボールを三竿と中川がつなぎ、保田のクロスに長沢が頭で合わせて枠の右。19分には右サイドから攻め、インナーラップしていた上夷克典が右足で狙ったが枠は捉えきれなかった。
 
そんな23分。藤本が少し切れ込んで右足で送ったクロスの弾道に、相手を引き連れて入り込む192cmの長沢の背後でステルス的に構えていたのは155cm中川。長沢についていた熊本守備陣がカブったところを隙ありとばかりに頭で仕留め、“低い打点からのヘディングシュート”が先制弾へと結実した。天皇杯G大阪戦でムードメーカーを務めた中川の移籍後初ゴールに、ベンチも総出で盛り上がる。
 
その後も積極的に攻める姿勢は続き、28分には三竿が絶妙なアーリークロスを前線へと送ったが、抜け出した渡邉新太はわずかにオフサイド。
 
攻める反面、熊本にも攻められ、30分には伊東俊の強烈なミドルシュートがクロスバー。32分にはコンビネーションで攻め上がった酒井崇一のシュートがサイドネット。そして35分、杉山がカットインして左足で送ったクロスから高橋のヘディングシュートで同点に追いつかれる。
 
40分には坂本のグラウンダーシュートを高木駿が掻き出す。41分には中川が倒されて得た三竿のFKに長沢が合わせて枠の左。44分にはセカンドボールを拾った渡邉が意表を突いて左足でミドルシュートを放ったがクロスバーに弾かれ、激しい攻防が続く試合は1-1で折り返した。

 

立ち位置を修正した後半、大分の勝ち越し点

後半も互いに攻め合う展開。47分の渡邉のシュートで得た弓場の左CKから長沢のヘディングシュートはブロックされる。50分には熊本の左サイドの連係から藤田一途に抜け出されたが、ハーフタイムに井上と藤本の立ち位置を修正したことで、相手のサイド攻撃への対応は改善される。
 
さらに、速く攻める意識の強く見えた前半よりもしっかりボールを握るようにしたことで、距離感もよくなり大分の時間帯が増えた。53分には長沢のプレスで相手のミスを誘い、渡邉がボールを拾ったのを起点に人数をかけて押し込む。56分には坂本にエリア内でボールを収められシュートされるが、上夷が体を寄せてしのいだ。
 
57分、大分に2点目が生まれる。高木のフィードを右に流れていた長沢が落とし、上夷がフィード。抜け出して収めた渡邉は、左から上がってくる藤本も視野に入れながら得意の切り返しで2人を剥がして右足で流し込み、再びリードを奪った。
 
60分、下平隆宏監督は弓場を下田北斗に、中川を野村直輝に2枚替え。ボールを落ち着かせるのが得意な2人を投入してポゼッションの質を高める。67分には大木監督が伊東を竹本雄飛にチェンジ。68分には井上のグラウンダークロスに長沢が詰めたが、相手も体を寄せて潰しにくる。79分には大分が、長沢を呉屋大翔に、井上を増山朝陽に交代して勢いを保った。

 

相手の猛追にも最後まで集中は切らさず

71分には熊本、藤田のクロスが杉山にわずかに合わず。その1分後には左サイドの連係で抜け出した呉屋のクロスに増山が飛び込むが枠の右。73分、熊本は藤田を田辺圭佑に、高橋を土信田悠生に交代して追撃を続けるが、プレーの精度不足でなかなか決定機に至らない。大分はしっかりポゼッションすることで時間を使いつつ、機を見て渡邉のスルーパスに増山が抜け出しクロスを供給したが、飛び込んだ呉屋には相手がしっかり寄せてヘディングを許さない。
 
熊本はさらに81分、杉山を東山達稀に、三島頌平を阿部海斗に交代。87分には大分が、足をつらせた渡邉に代えて梅崎司を投入した。ラインを高く保ち、出来るだけ前でポゼッションしようとする大分の背後を突いて熊本が長いボールを入れてくるのに対しては、高木が果敢に前に出て対応する。アディショナルタイムは5分。前節の苦い経験が頭を過ぎりつつ、決して同じ過ちは繰り返さないと、選手たちの気持ちが見える最終盤になった。
 
湿度の高いピッチで珍しく三竿が足をつらせて守備対応が難しくなったため、最前線にポジション変更。スクランブルで藤本と呉屋がスライドして相手の猛追をしのぐ形となる。坂本のクロスには下田が対応して高木が押さえた。90+3分には高木の蹴った対空時間の長いボールを前線で収めた増山のスパイクが、田辺との激しい競り合いの中で勢いよく脱げ、ソックスで粘るアクシデントも。最前線でプレスをかけ続ける三竿の魂の走りに鼓舞されるように、全員が闘い続けた。坂のフィードに抜け出した増山が田辺に後ろから倒されるが笛は鳴らず。上夷が体を投げ出し、高木が前線へとボールを送る。長いホイッスルが響くまで、集中は途切れなかった。

 

ピッチでの一体感はロッカールームまで続いていた

1200人のサポーターと3試合ぶりの歓喜を分かち合って戻ってきた選手たちを迎えるスタッフも、これまで以上にハイテンションだった。福井一城コーチがひとりひとりと激しく抱き合い、佐藤純フィジカルコーチは押されて階段から落とされそうになりながら笑っていた。岡山一成コーチの髪はキャップを脱いだ形のまま。下平監督が求めてきた、気持ちを前面に出しての一体感は、多少泥臭くはあったが勝利という成果につながり、そのまま試合後のロッカールームへも持ち込まれた。
 
試合後の監督会見がはじまるギリギリまで、大分のロッカールームからは歓声が響いていた。三竿はケアのためにふくらはぎに氷をぐるぐる巻きにしたままバスに乗り込んでいった。報道陣がミックスゾーンで待ち構えていた中川は、なかなか出てこないと思っていたら最後に広報に伴われて駆け足で登場。バスの出発時刻が迫っており、コメントは取れずじまいだった。「またzoomで!」と言いながらスーツケースを引っ張ってバスへとダッシュしていったが、おそらく次の公開練習日に囲み取材を受けることになるだろう。
 
夜、スタジアム近辺の飲食店やコンビニでは青いレプユニ姿が多く目撃され、ミルクロードへの道は大分ナンバーの車で渋滞した。勝点は譲れなかったが、九州ダービーを戦うライバルとして、やはりコロナ禍で入場者減に悩んでいる熊本に貢献できた面もあるならば、Jリーグの存在がまた、意義あるものとなったはずだ。