苦境打開を期した同士の戦いはスコアレスドロー。だが、新たな要素も見えた一戦
苦しい状況を打開しようと互いに変化をもたらして激突した一戦。慎重な駆け引きを繰り返した試合はスコアレスドローに終わったが、この一戦からも収穫を見出し、今後に繋げていきたい。
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GKムン、今季リーグ戦初出場
4日間の準備期間で、チームは対甲府戦術をみっちりと落とし込んだ。負傷者が多いことに加え安藤智哉、保田堅心、長沢駿を出場停止で欠いて限られたメンバーでの戦いとなること、そして甲府のストロングポイントが明確であることを踏まえ、片野坂知宏監督たちコーチ陣が今節に向けて準備したのは3-5-2のフォーメーション。トレーニングでの戦術確認では、どこを狙ってどのようにボールを動かしていくかがいつもより具体的に落とし込まれ、チームとしてはっきりとした戦い方を共有しているようだった。
まず、GKにはここまで数々のピンチをビッグセーブで救い続けてきた濵田太郎とは異なるストロングポイントを持つムンを起用。最終ラインには負傷明けの藤原優大を真ん中に、右にペレイラ、左にデルラン。甲府は前線の外国籍選手が気分次第でプレスに行ったり行かなかったりするため、不用意にスペースが空くことがある。特に左シャドーに入るアダイウトンが内側に寄りがちなところを突いて、ペレイラが積極的に攻め上がるよう準備していた。
甲府の守備の特徴から、今節はボールを持てると予想していた指揮官。アンカーの小酒井新大とその前に並んだ野村直輝・中川寛斗の3枚で後ろから引き出し、高いサイドに展開したり2トップと絡んだりしながら相手を押し込んでいく狙いを見せた。
相手の隙を突いて右サイドから攻めた前半
立ち上がりにはいきなりのチャンス。新加入の吉田真那斗が右サイドで粘ったところからペレイラが抜け出してクロス。合わずにファーに流れたが、ペレイラはその後も再三にわたってそのスペースを使い攻め続けた。14分にも吉田と渡邉との連係からペレイラがクロスを送るが、飛び込んだ宇津元伸弥には合わない。
だが、徐々に甲府が大分の狙いを理解し対策するようになると、前線の強力な外国籍選手が起点を作りながら、試合の流れは甲府へと手繰り寄せられた。33分には宮崎純真のクロスに鳥海芳樹が頭で合わせて枠の右へ。35分には荒木翔のFKからピーター・ウタカのヘディングシュートが炸裂したがこれは枠の左。
しばらく押し込まれる時間帯が続いた中で、41分にはひさしぶりに相手陣へと攻め込んだが、野村の吉田へのパスが荒木にインターセプトされ、アダイウトンがカウンターを発動。ただ、そのクロスは大きく精度を欠いたため大分としては助けられた。42分にはセカンドボールを拾われて荒木にミドルシュートを許す。これは中川がブロックし、こぼれ球をムンが処理した。前半アディショナルタイムには野村が落ちての後方でのボール回しから、高い位置を取ったペレイラへと展開して早めのクロス。だが、ゴール前の中川に届く前に相手にクリアされてしまった。
5枚のブロック崩しへとシフトした後半
前半にスペースを使われたことを踏まえてか、後半に入ると甲府は5-4-1のブロックを構えてカウンターを狙う姿勢を強める。ボールを握ってそれを攻略する大分との対照的な構図となった。
52分には右サイドで人数をかけてボールを動かし、最後は野村からのパスを受けた吉田が鋭いクロス。だが、飛び込んだ渡邉の直前で今津佑太に掻き出された。
試合展開が膠着しはじめ、甲府ベンチでは負傷からの復帰戦となる三平和司が交代を準備しはじめる。甲府が勝てなくなったのは三平が負傷離脱してからだ。強力ながらオーガナイズの難しい外国籍選手たちをサポートする三平がいるかいないかで、甲府の攻撃のクオリティーは大きく変わってくるのに違いない。
65分、アダイウトンに代わって三平が登場。67分には大分が、伊佐耕平を鮎川峻に代えた。プレシーズンに負傷した鮎川は、これが今季リーグ戦初出場となる。71分には甲府がピーター・ウタカを武富孝介に、宮崎を小林岩魚に交代。三平が頂点に入り、小林と鳥海の2シャドー。荒木が右WBに移り、武富が左WBに位置取った。三平は野村をケアするように言われてピッチに入ったと試合後に明かしたが、オール日本人となった甲府の、戦い方の変化が気になる。
スクランブルな3枚替えからの終盤の活性化
点検のため可動式屋根が開いたままになったレゾナックドーム大分。前半から細かい雨が降り続いたピッチはやや滑りやすくなっていたが、大分の選手たちからは試合後、「蒸し暑くなくて意外とやりやすかった」という声もちらほら聞かれた。逆に三平は「とにかく蒸し暑かった」。
加入直後の吉田は70分過ぎに足を攣らせたタイミングで、76分、片野坂監督は3枚替えに踏み切る。疲労の見える吉田と渡邉、そして負傷明けの藤原をベンチに下げ、木本真翔、キム・ヒョンウ、弓場将輝を投入。スクランブルな事態に小酒井が3バックの真ん中に下がり、弓場がアンカーでバランスを取る。木本は左WBに入り、宇津元が右WBへと移動した。キムと鮎川の2トップとなる。
78分にはデルランのクロスが山内康太にキャッチされる。81分にはペレイラのスルーパスに抜け出したキムが右足を振り抜くが、横っ跳びした山内に掻き出された。キムはそこからの宇津元の右CKにも高い打点からヘディングシュートを放ったが、今度はわずかに枠の左。
攻撃精度を欠き、両守護神が光った
83分には甲府が、木村を佐藤和弘に、鳥海をファビアン・ゴンザレスに2枚替え。ファビアンが頂点に入り三平がすぐそばを衛星的に動く形となる。
ここまで甲府は7試合、大分は8試合未勝利。互いに不調な同士、ここで勝ちたい思いがつのるが、疲労にも苛まれ、両軍ともに攻撃に精度やアイデアを欠く終盤となった。
87分には荒木のクロスをムンがキャッチし、90分には宇津元のクロスがゴール前を横切った。アディショナルタイムは7分。90+1分、押し込んだ状態からの辛抱強いポゼッションからのペレイラのシュートは、これも山口のファインセーブに阻まれた。最後まで攻め合いながら、ゴールネットは揺れず。この試合では両軍が前節からGKを代えており、大分はポゼッションとゲームコントロールのムン、甲府はファインセーブの山内が、スコアレスドローを演出する結果となった。
甲府をシュート2本に抑えたものの、大分のシュートも4本のみ。相手の得意とするカウンターを警戒して攻め急がずに長い時間を過ごした影響も大きかった。それだけに、キムのシュートを決めたかった一戦。
大分も甲府も勝点1を積んだ痛み分け。未勝利記録は9試合と8試合に伸びた。ともに今季ホーム1勝という点でも同じライバルは、ここでも仲良く並んで順位を落とした。
ただ、苦しい状況は続くものの、ここ2、3試合は徐々に戦い方に変化やバリエーションがもたらされている。負傷から復帰したメンバーのコンディションも上がりつつあり、次節には出場停止だった3人も戻ってくる。次こそ長いトンネルを抜け、勝点3を積みたい。