2失点後の戦術変更から劇的な同点へ。PK戦も制して3回戦進出

これまでリーグ戦に絡めずにいたメンバーが矜持を見せた。一瞬の隙を突かれての2失点後に自分たちで話し合って施した戦術変更が奏功して、3回戦への扉が開いた。
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ともにメンバーを入れ替えての激突
ホームで悔しい逆転負けを喫したJ2第19節の秋田戦から中2日。試合前日の移動では搭乗予定だった飛行機の機材トラブルなどに見舞われ、急遽予定を変更しながら11時間以上かけてようやく深夜に札幌入りというアクシデント含みの遠征になったが、夕刻までにはしっかりコンディションを調整して試合に臨めたようだ。
秋田戦でも複数の負傷者が出た中、この天皇杯2回戦に、片野坂知宏監督は予告していたとおり戦力をターンオーバー。これまでリーグ戦でなかなか出場機会を得られていなかったメンバーをピッチに並べていたが、本職とは異なるポジションでの起用や負傷明け間もない有働夢叶のベンチ入りなど、やりくりの工夫も垣間見える布陣となった。
札幌のほうは 大﨑玲央と荒野拓馬のダブルボランチを軸に、攻撃陣には若くフレッシュな選手たちを並べる4-4-2。ベンチには長期離脱から復活を遂げた高木駿や、新戦力のマリオ・セルジオらが控えた。

一瞬の隙で2失点し戦い方を変更
立ち上がりから5-4-1のブロックを構える大分は、個々の力量の高い札幌の攻撃に対して手堅く入ったように見えた。中を固めながらメリハリをつけて相手のパスコースを切り、シュートやクロスにも落ち着いて対応。16分には家泉怜依にミドルシュートも放たれたが枠の左に逸れた。ボールを奪えば縦への意識も見せつつ、相手がプレスに来ない中ではこまめにスライドして2バック状態+GKでポゼッションし、巧みに相手の間でボールを動かしてチャンスを窺った。
だが、やはり昨季までJ1で戦っていた札幌の強度やスピードは一瞬の隙を見逃してくれない。24分、松尾勇佑からのパスを受けた佐藤丈晟に激しくプレスをかけた木戸柊摩がボールを奪うと、そのこぼれ球を中島大嘉が繋ぎ、すかさず木戸が足を振る。30mもの無回転シュートはゴール左隅に突き刺さった。
さらに28分には大分の右CKからの札幌のカウンター。児玉潤のパントキックを原康介がスピードに乗って運び、個人技で大分の守備網を突破するとそのグラウンダークロスに出間思努が合わせて追加点。
大分の選手たちはピッチ上に集まり、2点のビハインドを取り返すために、より積極的な守備へと切り替えるよう話し合った。

薩川、2度目のチャンスに1点を返す
それも奏功してチャンスを増やした大分は、39分に1点を返す。クサビを右に展開したところから松尾が送った速いクロスに、鮎川峻が潰れた背後へと走り込んできた薩川淳貴が左足で突き刺した。この試合にシャドーで出場していた薩川は茂平や香川勇気らと左サイドで細やかなコンビネーションを駆使してチャンスを演出し、この直前にも同じような形からシュートを放ってポストに弾かれていたが、2度目のチャレンジが実ったかたちだった。
松尾のクロスに鮎川が飛び込むシーンなども作りつつ2-1で折り返すと、片野坂監督は3バックのセンターを宮川歩己から藤原優大に代えて後半をスタート。攻め込む時間を増やし、51分には藤原のタックルから2次攻撃へと切り替えて薩川のシュートが枠の右へ。
56分には札幌も3枚替え。出間、中島、荒野を下げ白井陽斗、アマドゥ・バカヨコ、田中克幸を投入して前線のターゲットを強化した。対抗するように大分も58分、佐藤を宇津元伸弥に代え、さらに75分には松岡颯人と薩川を池田廉と天笠泰輝に2枚替え。小酒井新大と天笠のボランチに右シャドーが池田、左シャドーが宇津元の形になる。77分には札幌が木戸に代えて新戦力のマリオ・セルジオを投入。

宇津元の劇的同点弾で延長戦に突入
79分、ムンのパントキックを池田が繋ぎ、裏に抜けた鮎川がGKと1対1のビッグチャンスを迎えるが、シュートは枠の上へ。
84分には札幌が大﨑を宮大樹に代えてミラー状態で守備対応。同時に大分は小酒井を伊佐耕平に代えて池田がボランチに、鮎川が右シャドーに移った。
90分の鮎川のシュートも枠の左に逸れ、アディショナルタイムは5分。白井のクロスにバカヨコが入ったところを香川がブロックし、大分も天笠のクサビや池田のクロスで攻めながら、そのアディショナルタイムも尽きる寸前の90+5分。宇津元の左CKが直接ゴールマウスへと吸い込まれ、劇的な同点弾へと結実して、試合は延長戦へともつれ込んだ。
延長開始と同時に札幌は岡田大和を高嶺朋樹に、大分は鮎川を有働に交代。だが、開始直後に香川が相手と接触して足をつらせたため、その香川を左シャドーに残して最終ラインに茂、左WBに宇津元の配置へと変更した。

PK戦を制し一体感を高めて次のステージへ
伊佐を頂点に5-2-3の陣形で前からプレスをかける大分。延長後半には疲労した松尾と有働のポジションも入れ替えて戦う。110分にはバカヨコのヘディングシュートをムンがキャッチ。116分には大分が攻め込んで分厚い攻撃を見せたがゴールを割るには至らない。2分のアディショナルタイムも尽きて、勝敗はPK戦へと持ち込まれた。
香川がムンに声をかけ、背中を押してはじまったPK戦。伊佐が蹴り、白井が蹴り、天笠が蹴って両軍ともに成功が続いていたが、札幌の2人目の高嶺がクロスバーに当てて失敗。池田が決め、児玉が決め、宇津元、田中と続き最後に藤原がネットを揺らして、大分の3回戦進出が決まった。
2点のビハインドを諦めることなく、自分たちで戦い方を変更して追いついた120分。応援の人数や声量では圧倒的にアウェイの環境だったが、ゴール正面に集結した大分のサポーターたちに力をもらうように、勝負は5人でついた。移動中のアクシデントや札幌から直接次の敵地へと移動するプチ合宿的なハードさも、あるいはチームの一体感を高めたのかもしれない。タフな戦いを勝利で終えて、チームは中2日でリーグの徳島戦に挑む。


