組織としての完成度の差。積み上げてきた水戸の背を見送った2025ラストゲーム

現実を踏まえた準備を施して臨んだものの、初優勝・初昇格を懸けて全力の水戸には、歯が立たなかった。今季のラストゲームは屈辱的な敗戦。ただ勝点1差でJ2に残留できたことが、戦績としての成果となった。
試合情報はこちら

アウェイ感きわだつケーズスタ
2000年にJ2昇格を遂げて以来、しばしば残留争いにも巻き込まれながら、下位から中位で粘ってきた水戸。クラブとして初優勝・初昇格に懸ける思いは強く、試合前からスタンドを埋め尽くしたサポーターの熱気が、一体となってスタジアムを支配していた。完全アウェイの雰囲気でスタートした決戦。これだけの入場者数をカウントしたことが稀なこともあり、インターネット回線もパンク気味で、他会場の経過がなかなかチェックできないような状況だった。それに対抗するように、大分のゴール裏にも約800人のサポーターが集結。いつもどおり圧倒的ニータンの群れ(?)も並び、ホーリーくんとの戦いに向けパワーを送っていた。
シーズン序盤から好調を維持してきた水戸。昨年5月から指揮を執る森直樹監督が、非常に統制の取れた組織を培うと巧みに相手のストロングを消しながら主導権を握って戦っており、今季はマネジメントで躓いた大分としては、チームの完成度に大きな差を否めない状態で挑むことになった。負傷やコンディション不良で欠場したり存分に力を出せなかったりするメンバーも多い。それでもなんとか最後くらいは意地を見せたい、そう考えて準備し、前節から4人を入れ替えたスカッドで立ち向かった。

前半は粘り強く守って無失点
前半は耐えて無失点の時間を維持したい狙い。コンディションが万全でない野村直輝や宇津元伸弥を後半の勝負どころでの起用に温存すると同時に、グレイソン、鮎川峻、有働夢叶、落合陸と攻撃のギアアップを狙えるメンバーをベンチに控えさせた。池田廉も状態がよくなかったのだが、前半だけでも守備に貢献してもらおうと先発起用。両サイドには今季なかなか出場機会を得られなかった松尾勇佑と薩川淳貴が配置された。
そんな大分に対し、水戸は序盤から積極的に攻め込む。10分にはドリブルで前進した加藤千尋のシュートを、そして13分にはカットインした齋藤俊輔の強烈なシュートを、濵田太郎がセーブ。岡本拓也がクロスを掻き出し、デルランが球際にチャレンジして、全員で体を張りながらピンチをしのぐ。
攻撃の形はなかなか作れず、11分には伊佐耕平が相手と競り合いながらシュートを放って枠の上。45分に榊原彗悟のFKを伊佐が繋いでデルランがシュートしたがゴール左に逸れ、前半の大分のシュートはこの2本にとどまった。

後半立ち上がりの先制で勢いづく水戸
それでも無失点で折り返したことは、チームの狙いとしては上々だった。このあとの勝負に懸け、竹中穣監督は池田をグレイソンにチェンジして、グレイソンが頂点、伊佐が左シャドーの形で後半をスタートする。
だが、その後半立ち上がりに失点した。46分、齋藤のクロスに合わせた多田圭佑のシュートを、振られた大分は防ぎきれず。この時間帯は西陽が強く射しており、大分にとっては逆光の中での守備でもあった。完璧な先制弾にスタジアムは盛り上がり、アウェイ感がさらに増す。水戸はさらに勢いづいた。
大分も松尾のクロスや野嶽惇也のスルーパスで好機創出を狙うのだが、相手に対応されて形を作れない。58分、伊佐と野嶽を野村直輝と有働夢叶に2枚替えし、天笠泰輝がボランチに下がって野村と有働の2シャドーの形となる。

ゲームに表れた、組織の完成度の差
だが、大分の戦い方を見ながら組織の柔軟性をもって戦う水戸は、どんどん攻勢を強めていく。セットプレーのチャンスも多く築きながら、66分には齋藤のシュートが枠の右。齋藤は67分にも狙って枠上へ。
竹中監督は67分、天笠に代えて鮎川を投入すると陣形を[5-3-2]へと変化させ、さらなる追撃態勢へとシフトした。70分には森監督が多田を塚川孝輝にチェンジする。なんとか攻め返したい大分だが、水戸の迷いない攻撃を跳ね返すのが精一杯。75分には鷹啄トラビスのスルーパスを受けた塚川が落とし山本隼大が右足を振り抜いて水戸が2点目を奪った。大分の勢いを見ても、勝負がついたという空気感。鳴門では徳島に先制された長崎が68分に追いついていたが、水戸の優勝への気運はさらに高まった。
78分、薩川に代えて宇津元が左WBに入る。今季は左サイドで攻撃の起点となり続けてきたが、この日は巧みに大分のスペースを使ってくる水戸の前に、なかなかチャンスに恵まれない。82分、齋藤のこの日6本目のシュートが枠の左へ。

この屈辱を胸に刻み自らの今後に繋げられるか
そして82分、水戸は山本と加藤に代えて村田航一と渡邉新太。ついに昨季大分のキャプテンが恩返し弾を仕留めに負傷から復帰してピッチに戻り、スタジアムの期待感は増す一方だ。
宇津元のクロスがクリアされ、有働のドリブルも止められた。野村のクロスもペレイラのドリブルも対応されてしまう。89分、榊原のシュートは枠の右。
90+3分、水戸は齋藤と仙波大志を新井瑞希と長尾優斗に代えて時間を使うと、安定した守備で無失点勝利。水戸のシュート13本に対して大分は3本で、枠内シュートは0だった。
再び首位に返り咲いた水戸が優勝とJ1昇格に沸く中、そのセレモニー中に渋滞を避けて大急ぎでスタジアムを後にしたチーム。竹中監督は試合後会見で自らの力不足を謝罪し、岡本や馬場賢治コーチは涙を堪えきれずに、選手もスタッフも鎮痛な面持ちで支度を整えて、チームは苦しかった今季の全試合を終えた。
この屈辱的な経験をどう受け止め、今後にどう繋げていくかは、個々の意識に懸かっている。それを束ねて来年の特別大会を、少しでも期待感をもってスタートできるよう、自らに矢印を向けていくのみだ。





