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試合レポート

試合前から激しかった駆け引き。タレント軍団に粘り強く戦って勝点1を積み上げた

 

世界的プレーヤーであるアンドレス・イニエスタを昭和電工ドーム大分に迎え、トーマス・フェルマーレンが日本デビューを果たす上に、移籍直後の藤本憲明もメンバー入りするという話題性満載の明治安田J1第22節H神戸戦。動じることなくチームは粘り強く戦い、勝点1を積み上げた。

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3バック? 4バック? 悩んだメンバー発表

 
試合2時間前、発表されたメンバー表に違和感が漂った。大崎玲央、ダンクレー、トーマス・フェルマーレンとCBを主戦場とする選手が3人。3バックシステムだろうか。
 
これまで神戸はトルステン・フィンク監督体制になってから、4バックでしか戦っていない。だが、フェルマーレン加入により新たなオプションが増えるかもしれないし、対大分戦術として守備の枚数を合わせてくる可能性もある。ただし大崎はMF登録だ。アンカーに配置してその前にセルジ・サンペールと山口蛍を並べ、ウェリントン、古橋亨梧、アンドレス・イニエスタの3トップという可能性も捨てきれない。試合前々日のトレーニングが急遽オフになったことも合わせ、不気味な空気が立ち上った。
 
ヒントを得ようとピッチ内アップを見守ると、3枚らしく見える。だが、片野坂知宏監督はそれを見ながら「これもフェイクの可能性がある」とまで考えていた。試合前に安田好隆コーチといろいろな可能性を話し合いながら、ゲームプランの細部を確認した。
 
蓋を開けてみると神戸のシステムは3-5-2。大崎が真ん中で、右にダンクレー、左にフェルマーレンが並んだ。前線はウェリントンと古橋の2トップだ。
 
ポゼッション志向の強いチーム同士、立ち上がりは慎重かつ繊細な駆け引きが繰り広げられた。その中でも古橋はシュートの意識が高く、立て続けに大分ゴールを脅かす。最初は高木駿のセーブから三竿雄斗が蹴り出し、次は枠を外れた。
 

個人技で先制され、オナイウの10得点目で同点に

 
20分過ぎたあたりから、やにわに神戸のプレッシングが激しくなった。ウェリントンと古橋がスイッチを入れ、山口もそれを追う。相手のフォーメーションが想定外だった大分のビルドアップは、急遽修正を施しても、十分に対応できない。立ち位置がよくなく、相手のハイプレスに徐々にハメられて苦しい局面を見せながら、どうにか背後を狙って前に運んでいた。
 
だが32分、先制点を奪われる。ロストしたところからイニエスタに個人技で次々に剥がされ、エリア内で古橋に渡されて鮮やかに反転され豪快なシュートを決められた。
 
なんとか1-0で折り返すと、48分に大分に同点弾が生まれる。フィードは相手にクリアされたが、そのこぼれ球を拾った小塚和季が絶妙なタイミングで逆サイドへとパス。サンペールがこれをカットし損ない、その後ろのティティパンが折り返すと、中央に走り込んできたオナイウ阿道がシュート。一度は飯倉大樹に阻まれたが、その跳ね返りをもう一度左足でオナイウが押し込んだ。これでオナイウは二桁得点。日本人得点ランク1位に躍り出た。
 

最後まで駆け引きしながら攻め合ったが…

 
その後はカードを切り合いながら、細やかな駆け引きが続く。次第に間延びしてきた57分、大分はティティパンに代えて新加入の嶋田慎太郎。59分にはイニエスタが古橋とのワンツーから強烈なミドルを放つがわずかに枠の左に逸れた。プレッシングによる疲労が見え始めた60分、神戸がウェリントンに代えて田中順也。田中順は下りて組み立てに参加し、運動量の落ちてきた神戸の中盤を補った。大分は当初準備していた小塚から三平和司への交代を一度取り下げ、72分、こちらも疲労の見える前田凌佑を島川俊郎に交代して対応する。
 
77分には初瀬亮がFKで直接ゴールを狙うが、高木駿がビッグセーブ。大分もカウンターからチャンスを築くが、フィニッシュの精度を欠いた。83分、古橋に代わり藤本憲明が登場すると、スタジアムはブーイングの嵐に包まれた。
 
87分にはCKの流れから田中達也のクロスに三平が頭で合わせるが、惜しくも飯倉に掻き出される。攻め合いながら両軍ともネットを揺らすには至らず、試合は1-1のままで決着した。
 
イニエスタの圧巻のプレー、古橋のキレのある攻撃。神戸のタレントたちのプレーはそのものが素晴らしいエンターテイメントだったが、リーグ強化費ダントツ1位のチームに対し、予算はリーグでダントツ最下位ながら、積み上げてきた組織的サッカーで挑む大分のサッカーも、2万6000人を集めたスタンドを存分に沸かせた。大分サポーターにとっては攻守にアグレッシブさを貫いた生え抜きの岩田智輝がイニエスタと一触即発状態になったことも含め、イベント感満載で楽しめたのではないかと思う。
 
この勝点1をどう解釈するかは、シーズンが終わってからの評価になる。まずは相手が想定外の出方をしてきたときに柔軟に対応できる力を養っていきたい。特に今節の神戸のプレッシングに対して、ビルドアップ時の立ち位置は選手たちの判断によって修正したいところだ。
 
天皇杯を挟んで3連戦。真夏のタフなゲームが続く。